台湾有事の労務規定ガイド|賃金支払義務と就業規則リライトの要点【2026年最新】

 

有事の際の労務規定はどうすればいいのか?

 

台湾特有の「天然災害休暇」制度と、有事における賃金・安全配慮義務の境界線

 
 
 

【起】日本企業の盲点:有事は「自然災害」の延長ではない

台湾で事業を営む日系企業にとって、台風による「停電停工(台風休み)」は馴染み深いものです。

しかし、有事(軍事衝突や緊張状態)における労務管理は、台風休みの延長線上にはありません。

多くの日本企業が「有事の際は日本の本社の指示を待つ」と考えていますが、通信が遮断され、現地の労働局の通達が錯綜する極限状態において、事前の「労務規定」がないことは、従業員との紛争や法的責任を招く致命的なリスクとなります。

 

【承】台湾労働基準法が突きつける「賃金支払義務」の現実

台湾の労務において、有事の際の最大の論点は「出勤不能時の賃金」です。

現在の台湾の解釈では、天災や不可抗力により出勤できない場合、会社に賃金支払義務はありません。

しかし、会社が「待機」を命じた場合は支払義務が生じます

ここで問題となるのが、台湾独自の「天然災害等における労働者出勤、賃金給付に関する指導原則」です。

「天然災害等における労働者出勤、賃金給付に関する指導原則」の説明をします。

1. この原則の「核心」:休みか、出勤か?

この原則を一言でいうと、「天災(台風・地震・洪水・その他不可抗力)で危ない時は、無理に出勤させない。ただし、その間の給料は労使の合意に任せる」というものです。

具体的には、以下の3つの場所のいずれかで「停班(出勤停止)」が発表された場合、従業員は「安全のために出勤しない権利」を持ちます。

  1. 勤務地(会社がある場所)

  2. 居住地(従業員が住んでいる場所)

  3. 通勤経路(通るべき道路や交通機関)

ポイント: 会社がある台北市が「通常通り」でも、住んでいる新北市が「停班」なら、その従業員は法的に休むことができます。会社はこれを「欠勤」扱いにしてボーナスを削ったり、解雇の理由にしたりすることは厳禁です。

 

2. 気になる「賃金(給与)」の支払いルール

ここが日本企業が最も混乱するポイントですが、台湾のルールは非常にシンプル(かつシビア)です。

① 休んだ場合:給料を払わなくても「違法」ではない

原則として、天災で出勤できなかった時間は「労働の提供がない」ため、会社はその時間の給料を支払わなくても法律違反ではありません。

  • 実務上の慣習: しかし、多くの優良企業(特に日系企業)では、福利厚生と従業員の満足度維持のため、「出勤しなくても通常の給料を支払う」という運用が一般的です。

② 出勤した場合:追加の手当が「推奨」される

交通機関が動いている、あるいは在宅勤務が可能で、従業員が同意して業務を行った場合、会社は通常の給料を支払います。

  • 支払い方の推奨: 指導原則では、危険な中を出勤した労をねぎらうため、通常の給料に加えて「追加の手当(加給)」や「交通手段の提供」をすることが強く推奨されています。

 

3. 具体的な「支払い方」と計算例

トラブルを防ぐため、就業規則には以下のパターンを明記しておくのが正解です。

 

パターンA:完全な休み(ノーワーク・ノーペイ)

  • 支払い方: 月給 ÷ 30日 ÷ 8時間 × (実労働時間)

  • 解説: 台風で1日(8時間)休んだ場合、その日分を差し引いて支給する。

 

パターンB:特別有給(多くの日系企業の採用例)

  • 支払い方: 通常の月給を全額支給(欠勤控除なし)。

  • 解説: 「天災特別休暇」として扱い、給料をカットしない。これが最も従業員との信頼関係を築けます。

 

パターンC:出勤した場合の「加給」

  • 支払い方: 通常の1日分の給料 + 一律の手当(例:500〜1,000元) または 時給×1.5倍

  • 解説: 「休日出勤手当」と混同されやすいですが、天災時の出勤は「時間外労働」とは別枠の扱いになります。

 

4. 総経理(日本本社)へのアドバイス(辛口で申し上げます)

「法律で払わなくていいなら、1円も払わない」というスタンスは、台湾では非常にリスクが高いです。

  1. SNSでの炎上: 台湾の従業員は権利意識が高く、掲示板で「あの会社は台風で給料を引く」と書かれると、採用に多大な悪影響が出ます。

  2. 有事(戦争・紛争)への備え: 台風なら1日で済みますが、有事で1週間出勤できない場合、全員を無給にすれば離職が相次ぎ、事業継続(BCP)が不可能になります。

 

次のステップ:就業規則のアップデート

今の貴社の就業規則に「天災発生時の出勤および給与支給細則」はありますか?

もし「台風の時は政府の発表に従う」という一行だけなら、有事や大規模災害の際に必ず揉めます。

「うちはどう決めておけば一番安全か?」という具体的な条文案が必要であれば、貴社の規模に合わせたドラフトを作成します。お気軽にお申し付けください。

 

有事の際、政府が避難指示を出した場合、企業は出勤を強制できません。

しかし、テレワークが可能であるにもかかわらず「有事だから休む」と主張する従業員に対し、どう規定を適用するか。

この曖昧さが、有事直後の社内混乱を増幅させるのです。

 

【転】解決策:有事専用の「緊急時労務管理特則」の整備

解決策は、既存の就業規則とは別に「緊急事態対応特則」を早期に策定し、労使会議で合意しておくことです。

  1. 出勤基準の明確化: 万安演習(防空演習)や政府発表の警戒レベルに応じた出勤停止基準を数値化して定める。

  2. 賃金の特別措置: 「無給」とする原則は維持しつつも、企業の社会的責任として「特別有給休暇」や「生活支援金」をどう充てるかを事前に規定。

  3. テレワークの強制権 通信インフラが維持されている場合の業務継続義務を明文化し、安否確認システムへの回答を義務付ける。

  4. 安全配慮義務の免責と限界 会社が避難を指示したにもかかわらず、私物を取りに戻って被災したケースなど、責任の所在を明確にする。

 

 

【結】「備え」がもたらす最強の求心力とBCP

 

労務規定を整備することは、単なる法的防御ではありません。

「わが社は従業員の命と生活を最優先に考えている」というメッセージを平時に発信することで、従業員のエンゲージメント(帰属意識)を高める強力なツールとなります。

J&T(Bz国際管理顧問)では、28年の知見に基づき、台湾の最新法令と日本の企業文化を融合させた「有事対応型・就業規則リライト支援」を行っています。

手遅れになる前に、貴社の「守り」を固めてください。

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