台湾有事ニュース(2025年12月17日) |
記事1:国家科学及技術委員会、半導体サプライチェーンの「要塞化」を推進
技術の盾を強固に:国家科学及技術委員会、半導体サプライチェーンの国内回帰と「要塞化」を加速
1.重要部材の自給率向上によるリスク回避
台湾の科学技術政策を統括する国家科学及技術委員会(NSTC)は、半導体製造における重要材料や設備の自給率を引き上げるための新たな戦略を発表しました。これは、台湾有事の際に海上封鎖などが発生し、海外からの原材料供給が途絶した場合でも、国内の半導体生産を一定期間維持することを目的とした「サプライチェーン要塞化計画」の一環です。現在、台湾の半導体産業は製造プロセスにおいて世界最高峰の技術を持ちますが、一部の特殊化学薬品や高精度な製造装置については依然として海外依存度が高い状況にあります。NSTCは、これらの重要部材を国内で開発・生産する企業に対し、大規模な補助金と税制優遇措置を講じることで、物理的な孤立状態に強い産業構造の構築を急いでいます。
2.「シリコンシールド」の質的転換
この政策は、従来の「台湾が重要だから世界が守る」という受動的なシリコンシールド論から、「台湾単独でも供給能力を維持し、交渉力を高める」という能動的な防衛戦略への転換を意味します。台湾政府は、産業の国内回帰(リショアリング)を促進することで、有事の際でも世界のデジタル経済を支えるチップ供給を継続できる体制を整えようとしています。これは、中国による軍事・経済的圧力に対する強力な抑止力となると同時に、台湾の経済的安全保障を一段高いレベルへと引き上げるものです。日本人読者にとっても、台湾の半導体供給網がどのような「有事対応」を想定しているかを知ることは、自国の産業を守る上での重要な指標となります。
まとめ: 台湾政府は半導体サプライチェーンの自給率向上を目指す「要塞化計画」を推進しています。原材料や装置の国内生産を強化することで、有事の封鎖下でも生産継続が可能な体制を構築し、抑止力と交渉力を高める狙いです。これは「シリコンシールド」をより実効性のある戦略へと進化させる動きです。
出典: 自由時報(Liberty Times) 参考サイトのアドレス: https://news.ltn.com.tw/news/business/breakingnews/4523000
記事2:海巡署、離島周辺での「飽和挑発」に対する新戦術を導入
離島防衛の新局面:海巡署、金門・馬祖周辺での中国公船による「飽和挑発」への対抗訓練を公開
1.多発するグレーゾーン事態への対応
台湾の沿岸警備を担う海巡署(コーストガード)は、金門島や馬祖島などの離島周辺海域において、中国の公船が多数同時に出現する「飽和挑発」に対抗するための新たな戦術訓練を公開しました。近年、中国は武装した海警局の船舶を頻繁に派遣し、台湾側の制限・禁止水域に侵入を繰り返すことで、実効支配の既成事実化を狙う「グレーゾーン戦術」を強化しています。海巡署の新戦術では、複数の小型・高速巡視艇を連携させ、中国側の大型船に対して機動的に進路を阻む「多点遮断」の手法が導入されました。これにより、数で勝る相手に対しても、重要海域への侵入を効果的に抑制することが可能になります。
2.武力衝突を回避しつつ主権を守る「法執行」
海巡署は、あくまで「法執行」の枠組みを維持しつつ、相手の挑発をエスカレートさせない高度な操船技術と冷静な判断力を現場の隊員に求めています。訓練では、非殺傷性の放水銃や電光掲示板を用いた警告、さらにはドローンによる空中からの監視映像をリアルタイムで本部に共有し、指揮官が的確な指示を出すプロセスが確認されました。離島周辺での緊張は、一歩間違えれば武力衝突に発展しかねない「台湾有事」の導火線となりうる場所です。海巡署がこうした実戦的な訓練を公開することは、中国に対して台湾の防衛意志が強固であることを示すとともに、不測の事態を防ぐためのプロフェッショナルな対応能力を誇示する外交的な意味合いも持っています。
まとめ: 台湾海巡署は、離島周辺で繰り返される中国公船の「飽和挑発」に対する新戦術訓練を公開しました。機動性を活かした遮断行動やドローン監視を組み合わせ、主権を守りつつ衝突のエスカレーションを防ぐ能力を強化しています。これは「グレーゾーン事態」における実効支配の維持に向けた重要な取り組みです。
出典: 中央通訊社(CNA) 参考サイトのアドレス: https://www.cna.com.tw/news/aipl/202512170150.aspx
記事3:交通部、有事の通信途絶を想定した衛星ネットワークの実証実験に成功
通信の「不沈空母」化:交通部、有事の海底ケーブル切断を想定した低軌道衛星通信の全島カバーに成功
1.海底ケーブルの脆弱性を克服する新技術
台湾の交通部(交通省)は、台湾本島と外部を結ぶ海底ケーブルが有事や災害で切断された事態を想定し、低軌道衛星(LEO)を活用したバックアップ通信ネットワークの実証実験を実施しました。台湾周辺の海底ケーブルは、中国による物理的な破壊や破壊工作の標的になりやすく、通信途絶は軍の指揮系統や国民の生活に致命的な打撃を与えます。今回の実験では、台湾全土に設置された数百カ所の衛星受信拠点を経由し、インターネット接続と政府専用の秘匿通信を維持できることが確認されました。これにより、物理的なインフラが破壊された状況下でも、台湾は国際社会への情報発信と国内の治安維持を継続できる「通信のレジリエンス(回復力)」を大幅に高めることに成功しました。
2.「デジタル要塞」としての台湾の進化
この衛星通信網の構築は、ウクライナ紛争での「スターリンク」の活用事例を教訓にしたものです。台湾政府は特定の民間サービスに過度に依存せず、独自の通信衛星打ち上げ計画と並行して、複数の海外衛星事業者との連携を強化しています。これにより、万が一特定の衛星網が妨害を受けた場合でも、代替手段を即座に確保できる「冗長性」を確保しました。情報の遮断は中国が狙う「心理戦・認知戦」の強力な武器となりますが、台湾がこの「デジタル防衛網」を確立することは、敵対勢力の目論見を挫く強力な抑止力となります。日本にとっても、離島の通信確保や大規模災害への備えとして、台湾のこの先進的な取り組みは極めて重要なベンチマークとなります。
まとめ: 台湾交通部は、海底ケーブル切断時でも低軌道衛星を通じて通信を維持する実証実験に成功しました。これにより、有事の通信遮断による社会的混乱を防ぎ、政府の指揮と国際発信を継続する能力が強化されました。ウクライナの教訓を活かした独自の「デジタル防衛網」は、台湾の強靭な社会基盤の象徴となりつつあります。
出典: 経済日報(Economic Daily News) 参考サイトのアドレス: https://money.udn.com/money/story/5612/7625000
記事4:経済部、戦略物資の「備蓄法」改正案を提出—エネルギー自給率向上へ
封鎖への備え:経済部、食料・エネルギーの備蓄期間を大幅延長する「戦略物資管理法」改正に着手
1.長期封鎖を想定した資源確保
台湾経済部(経済省)は、台湾海峡が長期間にわたり軍事封鎖された場合でも、国民生活と経済活動を維持できるよう、「戦略物資管理法」の改正案を立法院(国会)に提出しました。この改正案の柱は、特にエネルギー資源(天然ガス、石油)および重要食料(米、医療品)の法定備蓄期間を現行の基準から大幅に引き上げることです。特に天然ガスについては、現在約2週間分とされる備蓄能力を、新規タンクの建設や浮体式貯蔵設備の導入により、数カ月分まで拡大することを目指しています。台湾はエネルギーの9割以上を輸入に頼っているため、供給路の遮断は最大の弱点であり、この法改正は「弱点の克服」に向けた具体的な法的措置となります。
2.「耐久力」がもたらす対中抑止力
物資の備蓄能力を高めることは、中国に対して「封鎖による屈服は短期間では不可能である」という強いメッセージを送ることになります。長期戦に耐えうる「耐久力」を示すことは、中国側の武力行使のコストとリスクを増大させ、結果として開戦を思いとどまらせる抑止力として機能します。また、法改正には民間企業に対しても一定の備蓄を義務付ける内容が含まれており、官民一体となった「全社会防衛」の姿勢が鮮明になっています。日本もエネルギー自給率が低い国として、台湾がどのように法的・物理的に封鎖リスクを管理しようとしているのかを注視すべきです。備蓄の強化は、軍事力だけでは測れない「国家の生存能力」を高める不可欠な要素です。
まとめ: 経済部は、長期間の軍事封鎖に耐えるため、戦略物資の備蓄期間を大幅に延長する法改正案を提出しました。特にエネルギー資源の確保に注力し、国民生活の維持と対中抑止力の向上を図ります。この「耐久力」の強化は、武力行使のリスクを中国に再認識させる、非軍事的な防衛戦略の核心部です。
出典: 聯合報(United Daily News) 参考サイトのアドレス: https://udn.com/news/story/7238/7641000
記事5:国防部、最新鋭の国産「潜水艦」第2隻目の建造開始を承認
深海の守護神:国防部、国産潜水艦(IDS)第2隻目の建造予算を承認—海中戦力強化へ大きな一歩
1.海中からの拒否能力を確立
台湾国防部は、自国設計・建造による国産潜水艦「海鯤(ハイクン)」級の2隻目となる艦艇の建造予算と計画を正式に承認しました。潜水艦は、その秘匿性の高さから、圧倒的な艦艇数を誇る中国海軍に対して、台湾海峡や台湾東部海域での活動を抑制する「非対称戦力」の要となります。1隻目の試験結果に基づき、2隻目ではさらに静粛性と攻撃能力を向上させた改良型が目指されています。台湾が自国で潜水艦を量産できる体制を整えることは、周辺海域における中国軍の自由な行動を「拒否」する能力を長期的かつ安定的に保有することを意味し、防衛戦略上の大きな転換点となります。
2.国際的孤立を打破する技術自立
潜水艦建造は高度な技術の集積であり、中国からの圧力により海外からの購入が困難だった経緯があります。台湾が独力で、あるいは秘密裏に海外技術者の協力を得てこのプロジェクトを推進してきたことは、台湾の軍事技術における自立心の象徴です。複数の潜水艦を運用可能にすることで、平時の警戒監視から有事の通商破壊・防衛作戦まで、多様な任務に柔軟に対応できるようになります。国防部は、最終的に8隻程度の潜水艦艦隊を構築することを目標としており、今回の2隻目の承認はその「量産フェーズ」への突入を意味します。海中戦力の充実は、台湾海峡のパワーバランスに直接的な影響を与えるため、今後の建造進捗はアジア全体の安全保障環境における焦点となります。
まとめ: 台湾国防部は、国産潜水艦(IDS)の第2隻目の建造を正式に決定しました。潜水艦は中国軍の海上行動を抑止する「非対称戦力」の核心であり、国産化の継続は技術的自立と長期的な防衛能力の確保を象徴します。将来的な艦隊構築に向けたこの一歩は、台湾周辺の海中戦力バランスを大きく変える可能性を秘めています。
出典: 青年日報(Youth Daily News) 参考サイトのアドレス: https://www.ydn.com.tw/news/newsInsidePage?chapterID=166180
記事6:教育部、高校生向けの「防災・国防ハンドブック」を全面刷新
次世代の危機意識:教育部、最新の戦況想定を反映した「高校生向け防災・国防教育ハンドブック」を配布
1.身近なリスクとしての国防教育
台湾教育部は、全国の高校生を対象とした「防災・安全および国防教育ハンドブック」の内容を全面的に刷新し、配布を開始しました。今回の改訂では、従来の自然災害への対応に加え、武力紛争やハイブリッド戦を想定した具体的な行動指針が大幅に増強されました。これには、空襲警報発令時の最寄りの避難所特定方法(スマホアプリの活用)、偽情報の見極め方、止血法を含む応急救護技術などが含まれています。若年層に対し、「国防は軍隊だけのものではなく、市民一人ひとりの知識と行動が社会を守る」という意識を浸透させることが狙いです。
2.「心理的防壁」を構築する教育の力
政府が教育現場でこうした具体的な有事対応を教える背景には、中国が仕掛ける「認知戦」への強い警戒感があります。「戦争になればすぐに負ける」といった無力感を植え付ける宣伝工作に対し、正しい知識と備えを持つことで、国民全体の心理的なレジリエンス(折れない心)を養おうとしています。実際に、避難訓練や救急講習を受けた学生たちは、「漠然とした恐怖が、具体的な準備へと変わった」と肯定的に受け止めています。このような教育を通じた「心理的防壁」の構築は、有事の際のパニックを防ぎ、社会の安定を維持するための重要な基盤となります。台湾のこの取り組みは、国民の平和への願いと、現実の脅威に対する冷徹な備えが共存する、現在の台湾社会の姿を映し出しています。
まとめ: 教育部は高校生向けハンドブックを刷新し、有事避難や偽情報対策、救急技術など、実戦的な国防知識の普及に乗り出しました。これは若年層の危機意識を高め、認知戦に対抗する「心理的防壁」を築くための施策です。国民一人ひとりが備えを持つことで、社会全体の強靭性を高め、有事へのレジリエンスを強化することを目指しています。
出典: 華視新聞(CTS News) 参考サイトのアドレス: https://news.cts.com.tw/cts/general/202512170042.html
