2026年1月1日。激動の2025年を越え、台湾は今、歴史的な分岐点に立っています。 昨年末の軍事演習「正義使命―2025」の余韻が残る中、新年の幕開けとともに台湾の過去と未来を深く分析します。 |
2025年の総括:AIの爆発的成長と「封鎖」という新たな日常
2025年の台湾は、「経済的黄金期」と「軍事的緊張の常態化」という極端な二面性に揺れた一年でした。
経済面では、世界的なAI(人工知能)革命が台湾を世界の中心へと押し上げました。TSMCは2ナノプロセスの試験生産を成功させ、3ナノ・5ナノ製品の需要は限界を知らず、台湾のGDP成長率は予測を大幅に上回る7%超(一部推計)を記録しました。
一人当たりGDPで日本や韓国を追い抜くという歴史的な転換点を迎え、台湾は単なる「島国」から「世界経済の心臓」へとその地位を確立しました。
しかし、この繁栄は同時に、非ハイテク産業の停滞や物価上昇、賃金格差といった「K字型経済」の歪みを国内に生じさせました。
一方、安全保障面では、中国による「グレーゾーン事態」が「実戦的封鎖」へと一歩進んだ年となりました。
特に12月末に強行された演習「正義使命―2025」は、台湾の主要港湾を完全に包囲し、実弾ミサイルを東方海域へ着弾させるなど、有事の際の「兵糧攻め」を具現化しました。航空便の欠航や国際航路の変更を強いたこの演習は、台湾のみならず世界全体に対し、中国が「いつでも供給網を遮断できる」という恐怖を植え付けることに成功しました。
政治的には頼清徳政権が「実力による平和」を掲げ、防衛予算を対GDP比3%以上に引き上げるなど、自主防衛体制を加速させました。
国民は地震(12月の宜蘭沖強震)と軍事的脅威という複合的な試練にさらされましたが、TSMCの驚異的な復旧速度に象徴される「社会の強靭性(レジリエンス)」を世界に証明した、不屈の一年であったと言えます。
2026年の展望:抑止力の完成か、あるいは「窓」の開放か
2026年の台湾は、「抑止力の最終構築」と「グローバル・デカップリングの深化」がキーワードとなります。
安全保障において、2026年は「デービッドソン・ウィンドウ(2027年問題)」の前年として、極めて緊迫した空気に包まれます。
台湾軍は、2025年に予算化した大量の自律型ドローンや非対称戦力を実戦配備し、中国の「封鎖戦略」を無効化するための反撃能力を完成させる段階に入ります。
一方、米国では大統領選挙後の新政権が対中・対台政策を固定化させる時期であり、日米台の軍事・情報の統合運用がどこまで深化するかが、中国の決断を左右する最大の要因となります。
中国側も国内経済の冷え込みが続く中、さらなるナショナリズムの爆発を求めて、より挑発的な行動に出る可能性が排除できません。
経済面では、AI特需が安定期に入る一方で、世界的なサプライチェーンの「脱中国化」が加速します。
台湾企業は米国や日本(熊本・茨城など)への投資をさらに強め、台湾を「司令塔」とする分散型生産体制を確立するでしょう。
しかし、米国による関税政策や、中国による経済的報復(ECFAの一部停止など)が、伝統産業にさらなる打撃を与えるリスクも併存します。
社会的には、デジタル独裁を強める中国との対比で、台湾がいかに「自由で開かれた民主主義の砦」としての価値を維持できるかが問われます。
エネルギー安全保障(LNG拠点の拡充や再生エネの加速)が最大の国内課題となり、有事の際の社会維持能力を高めるための「全民防衛」が生活の一部となっていくでしょう。
2026年は、台湾が「シリコンの盾」に加え、社会構造そのものを「不沈空母」へと進化させる、正念場の年となります。
2026年、日本企業が直面するチャイナリスク
2026年を迎え、日本企業が直面する「チャイナ・リスク」は、もはや一時的な不況や摩擦という次元を超えました。それは「事業の継続そのものが、国家間の闘争に組み込まれる」という冷徹なフェーズへの突入を意味しています。
2026年、中国・上海や広州のオフィスで働く日本人駐在員が真っ先に感じるのは、物理的な緊張よりも「見えない法と壁」の圧力でしょう。2025年末の台湾への軍事演習「正義使命」を経て、中国国内では「国家安全」の概念が日常のあらゆる経済活動を飲み込み始めています。
1. 「スパイ」の定義が消失する日
2026年のビジネス現場では、何気ない情報収集が命取りになりかねません。
かつての中国ビジネスの醍醐味であった「人脈を通じた内部情報の把握」は、今や改正反スパイ法や国家機密保護法によって、即座に身柄拘束のリスクへと直結します。 現地での「市場調査」と「諜報活動」の境界線が完全に消失した今、企業に求められるのは、駐在員が「出国禁止(Exit Ban)」という足かせをはめられないための、徹底したコンプライアンスの再定義です。
かつてのように「現地任せ」にする時代は終わり、本社が直接、個人の安全をシステムとして守る覚悟が問われています。
2. 「人質」にされるサプライチェーン
物理的なリスクもまた、新たな局面を迎えています。
2025年末の実弾演習は、台湾海峡という「世界の頸動脈」が、中国の一存でいつでも遮断できることを証明しました。
2026年、日本企業は「海路が閉ざされた世界」を現実として想定しなければなりません。
重要鉱物や素材の禁輸といった「経済的武器」が振るわれる中で、代替調達先を持たない企業は、一夜にして生産停止に追い込まれます。これはもはやコストの問題ではなく、企業の「生存権」の問題です。
3. 「第15次5ヵ年計画」とデジタル独裁の完成
2026年から始まる中国の「第15次5ヵ年計画」は、自国技術による「信創(国産化)」を極限まで推し進めます。
外資企業に対する「技術開示」や「データ越境移転」の要求は、さらに執拗になるでしょう。
「中国市場で稼ぐためには、魂(技術やデータ)を売らなければならないのか」――そんな究極の選択を迫られるのが、2026年の姿です。ESG投資や国際的な人権基準が厳格化する中で、中国国内の不透明な人権状況や監視社会に加担していないことを証明するコストは、もはや収益を圧迫するほどに膨らんでいます。
結び:2026年、試される「選択の意志」
習近平政権がナショナリズムを唯一の求心力とする中、日本企業は「親中」か「脱中」かという二者択一ではなく、「リスクを完全に切り離して管理できるか(デリスキング)」という高度な外科手術を求められています。
2026年は、かつての「成功体験」を捨て、冷徹な地政学的事実に基づいて事業を再定義する、最後のチャンスとなるかもしれません。
