台湾有事はすでに始まっている

  

台湾有事の本質と2025年の危機

 明日、2025年12月30日に台湾海峡付近で行われる実弾中国軍演習「正義使命―2025」は、単なる訓練ではなく、経済・軍事・心理の三面から台湾を「窒息」させるための実戦リハーサルであり、民主主義陣営の結束を試す重大な挑発です。

この挑発行為を5つの視点から読み解いていくと、

  1. 演習の本質:軍事封鎖の常態化 今回の演習は、台湾の主要港湾を封鎖するシナリオを重点としています。これは「全面侵攻」の前に、台湾を世界から孤立させ、食料やエネルギー供給を絶つ「無血開城」を狙った戦略です。

  2. 習近平政権の焦燥:内政の失敗を外に向けた刃  中国国内の経済停滞や若者の失業問題という「内憂」から国民の不満を逸らすため、ナショナリズムを煽る必要に迫られています。独裁者のレガシー(歴史的功績)としての台湾統一が、経済合理性よりも優先されています。

  3. 「見えない戦争」:すでに開始されている侵略  ミサイルや艦隊による圧力は氷山の一角です。SNSを通じた偽情報の拡散(認知戦)、サイバー攻撃、中国公船による領海侵犯など、「グレーゾーン戦術」によって台湾社会の内部崩壊を狙う攻撃は、何年も前から休むことなく続いています。その行為は、台湾のみならず、日本、フィリピン他、近隣諸国や世界各国にも及んでいます。

  4. 台湾の防衛力:「シリコンシールド」とレジリエンス  TSMCの半導体供給網は、世界経済を人質にした最強の防御壁(シリコンシールド)です。これに加え、一昨日起きた(2025/12/27)地震直後でも10時間で復旧する台湾社会の強靭性(レジリエンス)そのものが、中国の計算を狂わせる最大の抑止力となっています。

  5. 日本の役割と10年後の世界  台湾有事は日本有事であり、自由主義秩序の崩壊を意味します。10年後に「自由な海」を維持できているかは、今私たちが中国の認知戦を見抜き、日米台の連携をどれだけ強固に支持できるかにかかっています。

 
それでは上の1~5をもう少し詳しく分析していきます。

1.名付けられた演習名「正義使命―2025」における中国の真の狙い

中国人民解放軍(PLA)が発動した「正義使命―2025」は、その名称が示す通り、中国国内向けの「大義名分」の確立と、国際社会への「既成事実化」を狙った高度な政治的示威活動です。

米国の戦略国際問題研究所(CSIS)や台湾の国防安全研究院(INDSR)の分析によれば、今回の演習の軍事的な最大目的は、単なる攻撃シミュレーションではなく、「域外介入阻止(A2/AD)」能力の誇示と「台湾港湾の完全封鎖」の定型化にあります。

特に、基隆や高雄といった主要港湾の封鎖を想定している点は、軍事衝突に至る前の「経済的・物理的な絞め殺し」を意図しています。中国側は、日米の軍事介入が本格化する前に、台湾を外部から遮断する「立体的な隔離状態」を作り出す演習を繰り返すことで、台湾国民に心理的な絶望感を与え、国際社会には「介入は多大な犠牲を伴う」というコスト意識を植え付けようとしています。これは物理的な破壊よりも、相手の戦意を喪失させる「超限戦」の一環です。

 

2.各国が抱く「温度差」と冷徹な評論

今回の演習に対する各国の反応は、それぞれの地政学的リスクを反映しています。

  • 台湾: 「冷徹な警戒」である。軍事演習に慣れさせ、不意打ちを行う「サラミ戦術」を熟知しており、今回の演習もその延長線上と捉えている。

  • 米国: 国家安全保障会議(NSC)は、今回の演習を「無責任な挑発」と非難しつつ、同時に2027年を侵攻の節目とする「デービッドソン・ウィンドウ」(*1)への警戒を強めている。

  • 日本: 高市政権下で「台湾有事は日本有事」という認識が定着しており、自衛隊の警戒監視レベルは最高潮に達している。しかし、依然として「挑発」か「演習」かの判断に苦慮する姿勢も見られる。

  • 世界各国: 欧州諸国は、TSMCの半導体供給網(シリコンシールド)への影響を最も懸念している。世界経済の動脈が中国の一存で遮断されることへの恐怖が、対中デカップリングを加速させる皮肉な結果を招いている。

  • (*1)「デービッドソン・ウィンドウ(Davidson Window)」とは、米軍の元高官が予測した「中国が台湾に侵攻する可能性が最も高い期間」を指す言葉です。2021年、当時のアメリカインド太平洋軍司令官であったフィリップ・デービッドソン海軍大将が、米上院軍事委員会の公聴会で証言したことがきっかけで世界的に注目されるようになりました。

  • A. 具体的な時期はいつか?

    デービッドソン氏は当時、「今後6年以内(2027年まで)」に中国が台湾に侵攻する可能性があると指摘しました。この「2027年」という数字は、以下の理由から中国にとって極めて重要な節目とされています。

    • 人民解放軍創設100周年: 2027年は中国軍の建軍100周年にあたり、習近平国家主席が軍の近代化目標の達成を掲げている年です。

    • 習近平政権の4期目への足固め: 2027年の党大会を前に、歴史的偉業としての「統一」が政治的カードになりやすい時期です。

    B. なぜ「ウィンドウ(窓)」と呼ぶのか?

    「窓」が開いている期間、つまり「中国にとって軍事行動を起こす条件が整い、アメリカ側の抑止力が相対的に低下する危険な時間帯」という意味が込められています。

    C. 現在の解釈

    この予測は、単に「2027年に戦争が起きる」という予言ではなく、「それまでに日米台が準備を整え、中国に『今は攻めても勝てない』と思わせる抑止力を構築しなければならない」という警告(デッドライン)として使われています。

    現在、多くのシンクタンクや専門家が、この「ウィンドウ」が閉じつつあるのか、あるいは2030年代まで延びているのかを議論していますが、いずれにせよ「今この数年間が最も危うい」という認識の共通言語となっています。

 

3.経済低迷下の習近平が「強硬姿勢」を貫く論理

中国経済のデフレ深刻化、若年層の失業率悪化という「内憂」を抱えながら、なぜ習近平は「外患」を煽るのでしょう。

独裁者の論理は、民主主義的な合理性とは異なります。

第一に、「国内不満の矛先逸らし」という独裁国家の常套手段です。内政が失敗するほど、外部に敵を作り、ナショナリズムを煽ることで党の正当性を維持する必要があるのです。

第二に、「機会の窓の閉鎖」への焦燥なのです。少子高齢化による人口ボーナスの中断と、米国の対中包囲網が完成する前に、自らの歴史的功績として「台湾統一」を成し遂げたいという、指導者個人の「レガシーへの執着」が、経済的合理性をも凌駕しているのです。習近平にとって、経済の停滞は「忍耐(闘争)」の対象であっても、統一を断念する理由にはならないのです。

 

4.「見えない戦争」:中国が仕掛け続けてきた重層的戦略

台湾有事は、ミサイルが飛ぶ前から既に開始されています。過去10年以上にわたり、中国は以下の「グレーゾーン戦略」を巧妙に組み合わせてきました。

  1. 認知戦(認知空間の占領): 台湾国内の親中派メディアやSNSを通じ、「米国は台湾を捨てる」「戦争になれば数日で終わる」というデマを流布し、防衛意識を内部から崩壊させる。

  2. 法執行戦: 海警局の船舶を台湾の制限水域に常駐させ、管轄権を既成事実化する。

  3. 経済的威圧: 台湾産の農産物や輸入品を突然禁輸し、経済的な打撃を与える。

  4. サイバー攻撃: 台湾の重要インフラ(電力・通信)へのハッキングを常態化させ、有事の際のブラックアウトをいつでも起こせるよう「テスト」を繰り返している。

これらは「戦争をせずに勝つ」という孫子の兵法の現代版であり、現在進行形の侵略行為なのです。

 

5.民主主義諸国が今、起こすべき行動

台湾および民主主義国が、この現状を打破するために必要なのは、単なる軍備増強ではありません。

  • レジリエンス(強靭性)の共有: 台湾が行っている「全民防衛」の概念を日米も共有し、サイバー攻撃やデマに対する「社会の免疫力」を高める必要がある。

  • 「シリコン・シールド」の要塞化: 半導体サプライチェーンにおける台湾の不可欠性を維持しつつ、有事の際に中国が受ける経済的ダメージが自国をも破壊する「相互確証破壊」の経済版を構築すること。

  • 多国間枠組みの常設化: AUKUSや日米豪印(QUAD)といった枠組みに、台湾の情報をリアルタイムで共有する仕組みを組み込み、「孤立した台湾」という中国の狙いを粉砕することである。

 

6.10年後の将来展望:分極化する秩序の行方

10年後の2035年、世界は二つのシナリオのいずれかに到達していると考えられます。

一つは、「新冷戦の固定化」です台湾海峡を境界線として、民主主義陣営と権威主義陣営が完全に分断され、高度な緊張下でバランスを保つ「武装した平和」の状態

もう一つは、「権威主義の自壊」です。過度な軍事費増大と経済停滞に耐えきれなくなった中国内部で統治システムが変質し、台湾海峡が「自由な公道」としての地位を回復するシナリオです

いずれにせよ、現在の我々の行動が、10年後の地図を書き換えるのです。台湾はもはや「地政学的な火種」ではなく、「民主主義の防波堤」としての価値を世界に証明し続ける存在となっています。

 

まとめ

中国が展開する「正義使命―2025」は、独裁指導者の焦燥と執念が生んだ虚像であり、同時に我々の覚悟を試す「踏み絵」でもあります。

台湾有事は遠い未来の話ではなく、今日、この瞬間の認知戦や経済的威圧の中に存在しているのです。私たちは、台湾国民が持つ「民主主義を守り抜く」という静かな決意を支持し、共に歩まねばなりません。

平和とは、祈るものではなく、実力と連帯によって勝ち取るものなのです。

 

台湾有事:読者のための10の疑問と真(Q&A)

 

Q1. なぜ中国は「今」、大規模な演習を行うのですか?

A. 複数の要因が重なっています。台湾の頼清徳政権による「主権堅持」の姿勢、日本の新政権による台湾関与への反発、そして何より中国国内の深刻な経済不況から国民の目を逸らすためです。外敵を作ることで国内の団結を図る、独裁国家の古典的な手法と言えます。

 

Q2. 2025年12月30日の実弾演習で、実際に開戦する可能性はありますか?

A. 現時点での「全面侵攻」の可能性は低いと見られています。しかし、ミサイルが台湾の領空を通過したり、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したりすることで、「偶発的な衝突」からエスカレーションするリスクはかつてなく高まっています。

 

Q3. 「主要港湾の封鎖」が成功すると、台湾はどうなりますか?

A. 台湾はエネルギーの9割以上を輸入に頼っています。港湾が完全に封鎖されれば、数週間で電力供給や食料事情が深刻化します。中国の狙いは、物理的な破壊よりも、この「兵糧攻め」による無血開城(降伏)にあります。

 

Q4. 日本メディアは「遺憾の意」ばかりですが、日本に実害はありますか?

A. 甚大です。台湾海峡は日本のエネルギー輸送の生命線(シーレーン)です。ここが中国の支配下に入れば、日本への石油・天然ガス輸送が人質に取られ、日本の外交・経済権が中国に握られることを意味します。また、先島諸島への避難民流入や軍事的緊張も避けられません。

 

Q5. TSMCが来年から価格を引き上げるのは戦争への備えですか?

A. その側面は強いです。地政学的リスクに伴う製造コスト増を顧客(AppleやNVIDIAなど)に転嫁すると同時に、「台湾が供給を止めれば世界経済が崩壊する」という抑止力(シリコンシールド)の価値を、経済的対価として明確に突きつける戦略的な動きです。

 

Q6. 「グレーゾーン戦術」とは具体的に何を指しますか?

A. 「戦争ではないが、平和でもない」状態を維持し、相手を疲弊させる手法です。中国海警局による臨検の強要、連日のサイバー攻撃、偽情報の拡散などが該当します。軍事力を使わずに、相手の主権を少しずつ削り取る「サラミ戦術」の一部です。

 

Q7. 習近平総書記が国内経済を犠牲にしてまで軍事を優先するのはなぜ?

A. 習氏にとって、共産党による一党独裁の維持と「歴史的使命(台湾統一)」は、国民の生活水準(経済)よりも優先順位が高いからです。「貧しくても強い中国」を掲げることで、自由主義的な価値観を排除し、自らの権力を絶対化しようとしています。しかし、日本では報道されていませんが国民は相当のストレスと不満がたまっています。

 

Q8. アメリカは本当に台湾を助けるのでしょうか?

A. 米国にとって台湾は、第一列島線の要(かなめ)であり、半導体覇権の鍵です。台湾を失えば米国の太平洋における覇権は失墜します。そのため、バイデン・トランプいずれの路線でも、「戦略的曖昧さ」を維持しつつも実質的な軍事支援を強化する方向は揺らぎません。

 

Q9. 台湾国内の世論は、中国の脅しで揺れていませんか?

A. 2025年現在、中国の威圧は逆効果となっており、台湾国民の「台湾人としてのアイデンティティ」は過去最高水準にあります。ただし、中国はSNSを通じた「認知戦」で国内の分断を執拗に狙っており、民主主義社会のレジリエンス(耐性)が試されています。

 

Q10. 私たち日本人が今、意識すべきことは何ですか?

A. 正しい情報を得ること、そして「台湾有事は対岸の火事ではない」という認識を持つことです。中国の狙いは「民主主義陣営の分断」にあります。日米台の連携を支持し、デマに惑わされない冷静な世論を形成することが、最大の抑止力につながります。